塾・予備校について悪質な口コミを書かれたら?対処法を弁護士解説

1.はじめに

令和6年度全国学力・学習状況調査によれば、東京都の小学6年生の通塾率は38.0%で、中学3年生の通塾率は49.6%¹でした。小学6年生の通塾率は全都道府県中1位で、中学3年生の通塾率は全都道府県中2位です。

東京都内の親の教育熱心さは強く、進学塾への投資が盛んです。都内の塾や予備校の競争は激しいですが、中でも自由が丘駅周辺は学習塾の数が特に多いです。周辺に教育意識の高いファミリー層が多く住んでいることや、東急東横線と東急大井町線の交差するターミナル駅ゆえ、小中高生たちが立ち寄りやすい場所であることも相まって、自由が丘駅周辺に100か所以上²も塾や予備校があります。

塾を選ぶ際に重視されていることは、その塾の評判です。最近では、Googleや全国の学習塾の情報サイト(塾ナビ、ameba塾探しなど)において、塾の利用者が簡単に口コミやレビューを投稿できることから、これらの投稿を参考に塾を選ぶ人も少なくありません。

しかし、転職サイトなどと同様に、退職したりさせられた元講師や従業員、受験に失敗した生徒及びその保護者など、不満を持つ人が鬱憤晴らしに悪口を書くケースなども多く、誹謗中傷が行われることがあります。

では、このようなサイトに、悪質な口コミが書かれた場合、どのような法的手段がとれるのでしょうか?

2.悪質な口コミの例

Googleや塾の情報サイトに投稿される悪質な口コミの例として、大きく分けて以下の2つが考えられます。

(1) 虚偽の情報

上記のような口コミサイトでは、電話番号の登録などを行えば、誰でも簡単に口コミを投稿することが可能です。そのため、同業他社の社員や、退職した従業員が意図的に同業の塾に関する以下のような虚偽の情報を書き込むことも想定されます。

    • 実際には塾の先生は専業のみのメンバーしか働いていないにもかかわらず、「A塾の先生は学生バイトばかり」などと記載された。
    • 全国塾協会の合格実績自主基準に則って表示しているのにも関わらず、「B塾は合格実績を水増ししている」と記載された。

このようにして誤った情報が掲載され、これを利用者が真実と考えた場合、塾や予備校の評価が低下して、入会者減少という被害が生じる可能性があります。

また、掲載情報が虚偽であると口コミやSNS等で発信することで、塾・予備校が信頼を失う可能性もあるでしょう。

(2) 誹謗中傷

口コミサイトでは、事実であるか否かにかかわらず、思い込み等により消極的な評価が投稿されることもよくあります。このような口コミは、場合によっては、名誉毀損等の誹謗中傷にあたることがあります。誹謗中傷にあたる口コミとして、以下のようなものが考えられます。

    • 「A予備校の先生は保護者に対して恫喝するので怖い」
    • 「B塾の講師は不倫している」
    • 「ここの塾に所属している講師が、ここら辺の地域の保護者はろくに大学にも行っていない馬鹿と発言していた」
    • 「この塾の先生から体罰を受けた」

このような口コミを見れば、多くの保護者はその予備校に子供を通わせることをためらうでしょう。このような誹謗中傷の口コミを放置すれば新規入会者は減少し塾の経営は大きなダメージを受けることになります。

3.対処法

Googleや情報サイトに対する書込みの削除請求

任意交渉

口コミサイトへの誹謗中傷の投稿を削除するために、塾の情報管理者やデータを管理するホスティングプロバイダに対して削除を依頼するという方法があります。これを任意交渉といいます。

情報サイトなどに削除依頼する場合、①サイトなどから直接削除依頼を行う方法や、②テレコムサービス協会の書式による削除依頼(送信防止措置依頼 https://www.isplaw.jp/)をする方法があります。

これらの方法は、サイトの管理者やデータを管理するホスティングプロバイダが削除するか否かを判断します。そのため、削除されるかどうかは、当該サイトの管理者やホスティングプロバイダ次第となります。

もっとも、投稿されたサイトの利用規約で禁止されているような内容が投稿された場合、それを根拠に削除を申し出ると、削除に応じてくれる場合が多いです。

典型的な利用規約違反としては、名誉毀損にあたる場合と、プライバシー侵害にあたる場合があります。

(参考:塾ナビ利用規約 第2条)
「当社サイトにおけるコンテンツに関する各種権利は、本規約に特別の規定がある場合を除き、著作権法等の関係諸法令の定めに従うものとします。当社サービスに関連して、以下の行為を禁止します。
1項 法令に違反するもの、著作権・著作者人格権・商標権等の知的財産権やその他他人の権利を侵害するもの、他人に経済的・精神的損害を与えるもの、脅迫的なもの、他人の名誉を毀損するもの、他人のプライバシーを侵害するもの、他人を中傷するもの、公序良俗に反するもの、罵詈雑言に類するもの、嫌悪感を与えるもの、民族的・人種的・その他全ての差別につながるもの、倫理的観点などから問題のあるものを、当社サービスを通じて掲載、開示、提供または送信(発信)すること」

 

(2) 削除仮処分(裁判所を通じた削除請求)

上記任意交渉に応じてくれない場合、削除仮処分という裁判手続きをとることが考えられます。

仮処分は裁判の一種ですが、通常の裁判より迅速な手続きで行われるもので、裁判所が申立におおむね間違いがないと判断した場合、一定額の担保金を供託することを条件に決定する暫定的措置のことです。「削除せよ」という仮処分が出れば、多くのコンテンツプロバイダ、ホスティングプロバイダは削除に応じてくれます。

ただし、裁判手続きである以上、法律に基づいた主張やそれを裏付ける証拠の提出が必要となります。

 

投稿者に対する削除請求

投稿者に対して削除の請求をするためには、投稿者の特定のために、「発信者情報開示請求」という手続きを行います。

裁判所に対して「発信者情報開示請求」を申立て、電子掲示板やSNSの運営者、投稿時やアカウントへのログイン時等の通信を媒介した通信事業者などのプロバイダに対して、発信者の特定に資する情報の開示を求めることで、発信者の氏名または名称および住所といった情報を取得し、発信者を特定することができます。

この手続は原則として訴訟で行われ、以下の要件が満たされていると判断された場合、情報が開示されます。投稿者の特定ができると、削除請求の他に、損害賠償請求などもすることができます。


発信者情報開示請求の要件

    • 「特定電気通信」による情報の流通がなされた場合であること(=不特定の者に受信されることを目的としたインターネット上の投稿であること)
    • 当該情報の流通によって自己の権利が侵害されたこと(権利侵害の明白性)
    • 発信者情報の開示を受ける正当な理由が存在すること
    • 発信者情報の開示を求める相手方が「開示関係役務提供者」に該当すること(=開示請求の相手方となるプロバイダであること)
    • 開示を求める情報が「発信者情報」に該当すること
    • 上記発信者情報を開示関係役務提供者が「保有」していること

4. 塾の悪質な口コミに関する参考判例

(1) 東京地裁平成30年 1月10日判決(WestlawJapan文献番号:2018WLJPCA01108004)

事案の概要

家庭教師の派遣、学習塾の経営等を目的とする原告が、被告が受験情報を取り扱う掲示板に5件の投稿を行ったことについて、原告の名誉信用を毀損するものであって不法行為(民法709条)に当たるとして、被告に対して損害賠償請求を行った事案。

裁判所の判断

本件掲示板の一般読者の普通の注意と読み方を基準とすれば、本件投稿1は、「寄生虫商法」というスレッド名や「自分の教え子を売るような行為は厳に慎むべき」という評価の記載と相まって、原告が大手学習塾と掛け持ちである所属講師を利用して大手学習塾から児童生徒を不正取得しているという事実を摘示するものと理解されるのが通常である。

本件投稿2及び本件投稿3は、原告の提供する□□の費用に関する質問を受けて,原告の提供するサービスの費用対効果が悪いという意見論評の範囲内にとどまらず,原告の所属講師が実際にはヘッドハンティングによらないのに,これにより採用されたかのような虚偽の事実を宣伝して、1時間当たり最高2万円もの極めて高額な授業料を徴収しているという事実を摘示するものと理解されるのが通常である。

本件投稿4は、噂という体裁を採りつつ、原告が同業他社の資料を盗用しているという事実の摘示を含むものと理解されるのが通常である。

本件投稿5は、冒頭に「いま流行りの経歴詐称?」という、疑問符を付してはいるものの、意見論評の範囲内にとどまらず、原告がその所属講師の学歴、経歴を詐称しているという事実を摘示するものと理解されるのが通常である。

したがって、本件投稿1ないし本件投稿5は、いずれも原告の名誉、信用を毀損するものというべきである。

(2) 東京地裁令和 2年12月18日判決(WestlawJapan文献番号:2020WLJPCA12188022)

事案の概要

本件はツイッターにおいて投稿された3件のツイート(以下「本件各投稿」という。)によって名誉権を侵害されたと主張する原告が、本件各投稿を投稿した者に対する損害賠償請求等のため、プロバイダに対して発信者情報開示請求を行った事案。

問題となった投稿は以下の通りです。

    • 「生徒会にスパイを送り込むと、校舎内で勧誘し放題」(本件投稿1)
    • 原告が、「クソガキばっか」「金の為じゃなかったらぶっ飛ばしてる」などと塾の生徒を罵倒している旨の投稿(本件投稿2)
    • 原告が、コロナウイルスにより生徒が塾に集まらず、「金稼ぎできねえ」と発言した旨の投稿(本件投稿3)
裁判所の判断

「一般の閲読者の普通の注意と閲覧の仕方を基準にすると、①本件投稿1は、原告が、高校内での勧誘が禁止されているにもかかわらず、生徒会にスパイを送り込むことにより、高校内で勧誘行為を行っているとの印象を与えるものであり、②本件投稿2は、原告が生徒を罵倒している内容であり、原告が生徒からお金を貰う立場でなければ、生徒らを殴り飛ばすような人物であるとの印象を与えるものであり、③本件投稿3は、本件投稿3のツイートの前に「コロナだろうが関係ねぇ。さっさと金持ってこい」とのツイートがあることや、本件アカウントのプロフィール欄には「金稼ぎにルール無用」と記載がされていることなども踏まえると、コロナウイルスにより金稼ぎのための生徒が集まらないと文句を言うような不謹慎な人物であるとの印象を与えるものであり、いずれも原告の社会的評価を低下させるもの」であり、名誉権の侵害が認められる。

5.弁護士にご相談ください

近時、希望の進路に進むために塾を利用する学生が多くいます。しかし、子どもの学習塾や予備校は単価が高く設定されていることが多く、また、選んだ塾によって子供の受験の合否が左右されます。そのため、塾や予備校を選ぶ保護者は、評判が良い塾を選択するでしょう。

インターネット上に、虚偽の情報や誹謗中傷にあたるような悪質な口コミがあると、塾の評判が低下して、入会者数が減少するなど、塾の経営に大きな被害を与えかねません。そのため、誹謗中傷や悪質な口コミに対しては、適切に対処することが必要です。

しかし、任意の削除請求や削除の仮処分の申立をするにあたっては、自己の権利やプライバシー侵害があったことなどを記載する必要があります。さらに、発信者情報開示請求の手続きは専門性が高く、弁護士に依頼せずに手続きを行うことが非常に難しい手続きです。これらの手続きをご自身で対応した場合、本来なら認められたはずの請求が、認められないということも考えられます。

また、プロバイダにはアクセス記録の保存期間があり、手続きを迅速に行わないと保管期間が経過して発信者情報請求ができなくなってしまいます。

そのため、悪質な口コミの削除や、投稿者に損害賠償請求を行いたい場合には、弁護士に依頼することをおすすめします。

稲葉セントラル法律事務所では、自由が丘にオフィスを構えており、企業や病院などの口コミトラブルを多数取り扱っています。 誹謗中傷や悪質な口コミでお困りの場合には、早めにご相談ください。

¹東京都の通塾率令和6年度全国学力・学習状況調査における児童質問調査と生徒質問調査内の「(26)放課後や週末に何をして過ごすことが多いですか。」という質問に対して、「4.学習塾など学校や家以外の場所で勉強している」を選んだ生徒の割合を基に、通塾率を算出しています。(参考資料:国立教育政策研究所HP 小学生:東京都‐児童(公立)【グラフ】、中学生:東京都‐生徒(公立【グラフ】)
²塾ナビHPに掲載されている自由が丘駅の塾・学習塾の数を参考にしています(2024年12月時点)

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