被疑者・被告人の監督者とは?刑事事件に詳しい弁護士が解説
今回の記事では、被疑者・被告人(以下「被疑者等」と言います。)の監督者について記載したいと思います。
問題意識について
検察官であったとき、弁護人が提出してくる勾留請求に対する意見書、保釈請求書等に、単に「監督者が存在する」と記載され、「両親がいる」「配偶者がいる」などしか記載されていないものが散見されました。
こういう書面を目の当たりにして、検察官として思うのは
「この人は本当に監督者に相応しいのか?」ということでした。
事件を起こしたとき、すでにその指摘されている監督者と同居していたのなら、単に「監督者が存在する」と言われても、捜査機関側(裁判所もそうだと思いますが)としては「いや、その監督がありながら犯罪を起こしたのではないか。」と考えていました。
また、公判廷において、監督者として出廷してきても、
弁護人「監督を制約しますね」
監督者「はい」
とだけで終わってしまうのがあり、そういうものについては徹底的に反対尋問をして監督者として相応しくないことを立証しようと考えていました。
そこで、今回のブログは、‘監督者として相応しい’と言えるためには、どんなことを記載する必要があるのか、どのようなことを公判廷で立証させるべきか、もう一度考え直そう、ということで作りました。
監督者として相応しいと言えるための要件は?
1 監督意思と監督能力
監督者として相応しい、と言えるには、個人的には二つの要件があると思っており、それは
「監督能力」と「監督意思」です。これについては後述します。
2 「監督」とは何か
そして、それだけではなく、当該事案において、「監督」というのは、どういうことなのかを明記する必要があると思われます。
被疑者等の為人(ひととなり)から、全く逃亡の恐れがない(たとえば、社会的身分があるなど)にも関わらず、逃亡するかどうかを「監視する」と記載しても、全く意味がありません。
より積極的に主張したいのが、「罪証隠滅のおそれ」「再犯のおそれ」なら、それらが「監督」によっておそれがなくなるあるいは減少する、ということを記載する必要があります。
「監督能力」と「監督意思」について
1 監督能力とは
捜査機関側にどのようなことを説明すれば、監督能力が認められるのかというのは、もちろん事案毎ではありますが、概ね以下のことなのだろうと考えています。
①被疑者等が保釈された場合、その監督者が現実に被疑者等を監視することができる時間帯はどれくらいなのか
②現実に被疑者等を監視することができない時間帯は、どのようにして監視を行うのか
③被疑者等は、その監督者の監督に服する意向があるのか(単純に、ナメられていないか、ということです。)
以下、詳述します。
① 現実の監督時間について
まず、監督者となる者の為人(ひととなり)が分からなければ、全く説得的ではありません。
そのため、生年月日、職業(安定した収入があるかも含めて)、これまでどのように被疑者等と接してきたのか、健康状態はどうなのか、などを説明する必要があります。
そして、職業ですが、ここが一番重要だと考えており、もし「無職の被疑者等を、フルタイムで稼働する監督者が監督します。」と言っても、何ら説得的ではないですよね。
そこで、どのような時間で稼働しているのかを記載します。
ここで、現実に監視する時間が全くないという場合には、結局監督者と言っても、全く監視下にいないじゃないか、ということで反論が来ることになりますから、その場合には以下の②に掲げる事項で補う必要があります。
② 現実に監督できない時間をどう補うか
これは、事案と事実によりけりだと思いますが、私の場合はこうしている、というのを記載します。
・Google mapsなどで、被疑者等の位置情報を、常に監督者が把握できるようにする
・被疑者等が使用するスマートフォンにフィルタリング機能などを設定し、利用できるサービスを制限する(インターネットを利用する環境の犯罪(児童ポルノ、薬物取引等)の場合)
・自宅に固定電話がある場合には、そこから被疑者等に監督者以外の協力者に架電させ、自宅にいることを明らかにさせる
・被疑者等がどうしても外出しなければならないときには、移動経路が明らかになるように努める(チャージしたSuicaだけを持たせ、履歴を印字させる)(病院等で実施されているプログラムなどに通う場合には、病院等と協力し、来訪及び帰宅時の報告を行う)
…etc.
※もちろん、これらを全て実施しろなどというつもりもありませんし、四六時中監督されていると被疑者等が感じれば、それ自体が負担になってしまうので、ケースバイケースであるということを重ねて明記しておきます。
③ 監督者は、被疑者等の監督に服する意向があるのか
一つの例をあげると、これは少年事件でしたが、過去に2度ほど暴力事件を起こしていて、その都度両親が「監督する」と言っていたにも関わらず、3度目の事件を起こしてしまいました。
被疑少年は逮捕されてしまいましたが、ここで弁護人が勾留請求に対する意見書を提出する際に、「両親が存在する」と記載することは妥当なのか、ということが考えられます。
つまり、その親がいくら監督すると言っても、過去の行動等から、その監督者の意向には服さないだろうと考えられているものはダメだと考えられます(※上記事案ではないですが、保釈は通っても、保釈保証協会の申込みの際に、その監督者が申込人になっても審査が通らないということもあり得ます)。
この点については、被疑者等の誓約書や陳述書などで、監督者となる者に対して監督に服する意向があるのかだけではなく、どうしてその存在がありながら犯行に至ってしまったのか、ということも記載する必要があるかと思いますし、反対に監督者となる者からも、そのような事情を聴取して、経緯等を記載し説明する必要があると思われます。
2 監督意思とは
単に「監督していくつもりです。」と述べるだけで足りるのでしょうか。
例 大麻取締法(単純所持)を題材に
被告人:20代 単身居住で、所持品検査で大麻を所持。前科があり、執行猶予が付くか微妙なケース
監督者:被告人の母親
このような事案だと、「再犯のおそれ」がないことを弁護人としては徹底的に主張したいケースですが、以下のような尋問があったとしましょう。
〜主尋問〜
・・・
弁護人:「今回、被告人が再度事件をやったと聞いて、どう思いました。」
監督者:「もうしないと聞いていたので、ショックでした。」
弁護人:「今後、お母様が、被告人と頻繁に連絡をとることで、監督していくということでいいんですね。」
監督者:「はい。」
弁護人:「終わります。」
〜反対尋問〜
検察官:「被告人は、前回裁判にかけられた後、どうして再び大麻に関わるようになったのか、聞いています
か。」
監督者:「いえ、詳しくは聞いていません。」
検察官:「被告人が、どうやって大麻を使用していたか、知っていますか。」
監督者:・・・
検察官:「どこから入手していたのか、知っていますか。」
監督者:「クラブとか、ですか。詳しくは聞いていません。」
検察官:「お母さん、グラインダーってわかりますか。」
監督者:「何ですか、それ。」
検察官:「お母さん、ジョイントってどんなものかわかりますか。」
監督者:「わかりません。」
検察官:「これら、大麻の道具なんですけど、どんな形状しているかわかりますか。」
監督者:「わかりません。」
検察官:「そういう道具を見たこともないのに、被告人が今後大麻を使っているかいないか、どうやって判断
するんですか。」
監督者:「そうですね・・・これから勉強します。」
検察官:「次、被告人が大麻を使っていた、あるいは使っているかもしれないと分かったらどうします。」
監督者:「やめなさいって注意します。」
検察官:「通報しないんですか。」
監督者:「そうですね、実の息子なので…どうしよう。」
このようなやりとりがあったとき、客観的にはどう見えるでしょうか。
監督者として出てきてもらったにも関わらず、効果的な尋問ができたと言えるのでしょうか。
⭐︎ちょっと一言
このほかにも、単に「ダルクに通わせることにしました。」「依存症を解消させるためのクリニックにいかせています。」といって、監督者として真摯に被告人の犯罪に向き合っている、とだけで締め括るものがありますが、弁護活動はともかく、被告人にとって、それで足りるのでしょうか。
心理の専門家ではないのでわかりませんが、実際に何度も繰り返してしまう人は、孤独に悩んでいるのだと思います。自己責任、と簡単に社会とのつながりを排斥するのが世のトレンドなのかもしれませんが、社会には自分の意思だけで切り拓いていくことができる人たちばかりではありません。
今、この時点で執行猶予をとる事だけが弁護活動ではなく、再犯につながらず社会に復帰できるようにするためには、早い時点で監督者が寄り添って、孤独から救うことが必要なのかも知れません。
被疑者・被告人の監督者についてのポイント
私が考えるに、監督するつもりがある、というのは、抽象的に意思を述べさせるのではなく、具体的に説明させることが必要であると思います。
それは、
どうして犯罪に及んでしまったのか
犯罪をするためにはどんな準備や道具が必要なのか
もし次に、犯罪に関連する人や物と被疑者等が接していると分かったとき、どうするか
ということも監督者が把握し、主尋問で説明できる必要があると思っています。
弁護士からのコメント
以上、監督者として相応しいと説得性を持たせるためにはどうするかを記載しました。
もちろん、実現不可能なことを記載してもいけませんので、事案毎に、でき得ることは何なのかを考えて、説得的に監督者が「何に」対して効果的であるかを説明しなければなりません。
親に書面を書かせて、法廷に出てきてもらうだけで、なんとなく終わってしまうことが多い「監督者」を、今一度考えていただけるきっかけになればと思いました。
このようなことでお困りであれば、是非当事務所にご相談ください。
まずは弁護士にご相談ください
弁護士法人 稲葉セントラル法律事務所では、元検事の弁護士が迅速にご相談に対応できる体制を整えています。手続きの見通し、不起訴の見立て、示談交渉のノウハウ、検察、警察の手法を知っているからこそ有効な弁護活動を知り、確かなサポートを提供しております。
ご本人、ご家族からの相談は初回無料です。刑事事件でお困りの方はお気軽にこちらよりご相談ください。