小さなお子様が犯罪被害に遭ったら

1. はじめに

弊所で取り扱う刑事事件事件の中で、犯人側の弁護をするだけではなく、被害者側の弁護をすることもあります。

 

その中でも、残念ながら小さなお子様が犯罪被害に遭ってしまったという事例に接することもあります。

 

今回の記事では、そのような事例に万が一遭遇してしまった場合、我が子にできることは何か、ということについてまとめたいと思います。

 

また、最近刑法、刑訴法改正が行われ、強制性交等が不同意性交等になるなど、大きな修正が加わりましたが、本記事にかかわるところで重要な部分にも修正があったため、記載することにします。

 

 

2. 小さな子が被害に遭うと、捜査、裁判はどう進むのか?

110番通報を受けた警察官は、現場に臨場するなどして取り急ぎどのような事態があったのかを確認することになりますが、被害者が小さなお子様だと、具体的なヒアリングは、別の機会に、警察官ではなく、検察官がヒアリングを行う(これを司法面接と言います。)ことが多いです(もっとも警察官がヒアリングを行うこともあり得ます。)。

 

大体は、その一度の司法面接でヒアリングが終わることが多いですが、何度か実施されることもあり得ます。

 

一方で、捜査機関が犯人と思われる者を捕まえるなどして、取調べを行い、その他防犯カメラ等の証拠を集め、裁判で有罪を取ることができるかどうか確認し、最終的に起訴するか不起訴とするかを判断します。

 

仮に起訴、つまり刑事裁判が開かれるとなった後、犯人(正式には被告人という名前にかわります)が「自分のやったことで間違いないです。」と事件を認めると、捜査の過程で作成された被害者の供述がそのまま裁判で有罪となる証拠として用いられます。

 

一方で、被告人が「自分のやったことは認めない。」と事件を否認すると、捜査の過程で作成された被害者の供述は、裁判で使用されません。そうすると、捜査の過程でお話しした内容を、一からまた公開の法廷で話さなければならないという事態になります(証人尋問)。

 

この時、もちろんぶっつけ本番で、というわけにはいきませんから、何度か検察庁で尋問の練習を行い、本番に挑みます。

 

もちろん法律上の例外はありますが、原則は、尋問中の発話のやりとりは被告人が聞いていることになりますし、被告人側の弁護士や裁判官から質問を受けることになります。

 

 

3. 犯人に名前は知られてしまう?

犯人が被害者側の名前を知ることができる機会、というのは、現状の法律では何回かあり、①警察官等から逮捕状を示された上で逮捕される場合、②検察庁での取調べを受ける際に、被疑事実を確認する際、そして③起訴された場合、起訴状という書面を犯人が受け取ることになりますが、そこに氏名が載ることが原則です。①と②については、犯罪被害者保護の点から、捜査機関が読み上げないということもありますが、③については、「犯人がどのような裁判を受けるのかを把握する権利」があるため、被害者の氏名は記載することになっています。

 

★この点、今後施行される刑事訴訟法の改正により、これらの過程全てで犯罪被害者の氏名を秘匿することができる場合が定められることになりました。この点については、また法改正のタイミングでご説明します。

 

 

4. 犯人とは示談をすべきなのか?

犯人との示談は、上記の点を考えながら考慮していく必要があります。

 

すなわち、犯人が否認する場合には、裁判に出廷してお話をしなければならないという点がありますが、早く忘れたいということとは相反します。そうすると、二次被害等につながる恐れもあります。また、犯人に氏名を知られてしまう、という恐れもあります。私が検事の頃に、被害者が著名な方で、「どうしても犯人に名前が知られてしまうと不都合だ」ということがあり、起訴不起訴の判断に大変悩んだ経験があります。

 

もっとも、示談する、ということは、必ずしも「お金で犯人を積極的に許す」だけではありません。「お金は受け取るが、それはあくまでも受領すべき賠償金なので、後は捜査機関にお任せする。」という意向を示して示談をすることも可能です。

 

 

5. 子どもが犯罪被害に遭ってしまった時に気をつけておくべきこと

保護者や周りの大人が、小さな子どもが犯罪被害に遭ってしまったことを知ると、相当なショックや戸惑いを感じることになります。

 

「どのようなことがあったの?」などと問いかけて事態を把握し、その後は警察に通報か、などとお考えだと思われます。

 

そのプロセス自体極めて重要ではありますが、ここでもっとも大事なことは、

大人の言葉で子どもの供述を汚染しない

ということです。

 

汚染が何を指すか、という話ですが、例えば、

子どもの話では「大きい大人の人で、かっこいいお洋服を着ていた男の人に、体を触られた。」

などと話すと、これを聞いた大人は、「太ったスーツ姿の大人」のようなイメージを抱くと思われます。

 

これを、無意識に、子どもとの会話で、「じゃあ●●ちゃんは、太ったスーツの大人に体を触られたのね?」などと問いかけ、子どもはこれに「うん。」と頷いてしまいます。

 

このやりとりを警察に通報し、警察や検察の事情聴取において、子どもが「私は、太ったスーツの大人に体を触られた。」などと覚えて話をしてしまうことがあります。

 

これが供述の汚染というものであり、子どもの生の言葉が、第三者によって変換されてしまうということになります。

 

供述の汚染が認められるとどうなるか、ですが、

前記の通り法廷でどのような被害に遭ったのかをお話しすることになり、そこでの供述はすでに汚染されている、という可能性があれば、犯人側の弁護士はこの点を突いて、「法廷でお話しした被害者供述は、信用することができない」と争い、無罪を取ろうと考えます。

 

場合によっては、被害者からはじめに事情を聴取した保護者等の大人が、その時の状況を説明するために法廷に出てお話ししなければならない場合もあります。

ですから、有罪にむけて検察側としては、「被害者の供述は汚染されたものではない」と説明したいので、やはり捜査機関側がはじめにヒアリングするまで、または、法廷で話をするまでに汚染されていない状況を確保したい、ということになります。

 

そもそも子どものような小さい子や、障がいのある方については、一般的に他者の誘導に従いやすいという点があります。

 

被害に遭ったことを知った直後は不安に陥ってしまうものと思われますが、冷静に、お子様等の初期供述を確保しておくことが必要になります。

 

場合によっては、「これはおかしな事態が発生した」と気づいた瞬間に、ボイスレコーダーや動画などでその時の状況を保全しておくことも重要です。

 

 

6. 今後施行予定の改正刑訴法について

令和5年6月16日、「刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律」及び「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」(いわゆる「盗撮罪」)が成立し、一部の規定を除いて、同年7月13日から施行されました。

 

報道等では、もっぱら、強制性交等罪が不同意性交等罪になり処罰条件が明確になったこと、盗撮罪が新設され法定刑が従来より重くなったことが取り上げられておりますが、そのほかに犯罪被害者にとって重要な法改正が行われましたので、今回取り上げることにいたしました。

 

具体的には、前記の、犯人が否認した場合に、法廷で話をしなければならない、という点ですが、これを「捜査機関等で録音録画をしたヒアリングのやりとりを、法廷で再生し、それを法廷で話したこととみなす」というものです。

 

この改正により、子ども、大人に関わらず性犯罪被害者は、法廷で一から話をする必要がなくなる上、性犯罪に限らず子どもについては「供述者の年齢…その他の事情により、…公判期日において供述するときは精神の平穏を著しく害されるおそれがあると認められる者」にあたるので、負担が軽減されるものと思われます。

 

もっとも、反対尋問として、犯人側の弁護士や裁判所からの尋問機会を保証しなければならないとされているため、その負担は存在します。

 

そして、この規定を適用して負担を軽減するために大事なのは、法律の要件でもある、「聴取に至るまでの情況その他の事情を考慮し相当と認めるとき」に該当するかどうか、という点です。

 

すなわち、前記の通り、被害者に供述の汚染があれば、犯人側の弁護士としては、「汚染があるため、聴取に至るまでの情況がふさわしくないのだ!」といって、録音媒体を再生してこれを法廷での供述に代えることについて異議(反対)することになります。

 

場合によっては、このやりとりで数ヶ月期日が経過してしまうこともあり得ますから、そうすると、「録音媒体を提出するだけで良いと思っていたのに、ヒアリングまでの過程に汚染があることが見つかってしまったから、一から話さなければならないのか、でももう数ヶ月経っているし、子どももお話できるか心配だ」という状況になりかねません。

 

今回の法改正の要件で示されているように、やはり、捜査機関のヒアリングが行われるまでに供述の汚染が含まれないようにすることは極めて重要です。

 

 

7. 弊所でできること

被害にあってしまった直後にお電話をいただければ、どのように警察と連携していくのか、供述の汚染が起こらないようにするためにはどうすべきか、ということをお伝えすることもできます。

 

また、検察に対して、ヒアリングの過程までに汚染がなかったということを弁護士の目線で説明する文書を作成し、これを提出することもできます。

 

その他、万が一法廷で話さなければならない事態になってしまった時のサポートも行います。

 

被害に遭ってしまうと、冷静に対処していくことは難しいことと存じます。しかし、我が子の万が一、に備えて、また、更なる負担が生じないために、落ち着いて警察、検察と連携して対処していくことが必要です。

 

弊所では、刑事弁護に精通した元検察官の弁護士が所属しております。お子様の有事に対して、共に戦うことができますので、早めのご相談をお勧めいたします。

 

 

8. 参考となる法律

「刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律」

第三百二十一条の二の次に次の一条を加える。

第三百二十一条の三 第一号に掲げる者の供述及びその状況を録音及び録画を同時に行う方法により記録した記録媒体(その供述がされた聴取の開始から終了に至るまでの間における供述及びその状況を記録したものに限る。)は、その供述が第二号に掲げる措置が特に採られた情況の下にされたものであると認める場合であつて、聴取に至るまでの情況その他の事情を考慮し相当と認めるときは、第三百二十一条第一項の規定にかかわらず、証拠とすることができる。この場合において、裁判所は、その記録媒体を取り調べた後、訴訟関係人に対し、その供述者を証人として尋問する機会を与えなければならない。

 

一 次に掲げる者

イ 刑法第百七十六条、第百七十七条、第百七十九条、第百八十一条若しくは第百八十二条の罪、同法第二百二十五条若しくは第二百二十六条の二第三項の罪(わいせつ又は結婚の目的に係る部分に限る。以下このイにおいて同じ。)、同法第二百二十七条第一項(同法第二百二十五条又は第二百二十六条の二第三項の罪を犯した者を幇助する目的に係る部分に限る。)若しくは第三項(わいせつの目的に係る部分に限る。)の罪若しくは同法第二百四十一条第一項若しくは第三項の罪又はこれらの罪の未遂罪の被害者

 

ロ 児童福祉法第六十条第一項の罪若しくは同法第三十四条第一項第九号に係る同法第六十条第二項の罪又は児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律第四条から第八条までの罪の被害者

 

ハ イ及びロに掲げる者のほか、犯罪の性質、供述者の年齢、心身の状態、被告人との関係その他の事情により、更に公判準備又は公判期日において供述するときは精神の平穏を著しく害されるおそれがあると認められる者

 

二 次に掲げる措置

イ 供述者の年齢、心身の状態その他の特性に応じ、供述者の不安又は緊張を緩和することその他の供述者が十分な供述をするために必要な措置

 

ロ 供述者の年齢、心身の状態その他の特性に応じ、誘導をできる限り避けることその他の供述の内容に不当な影響を与えないようにするために必要な措置

 

前項の規定により取り調べられた記録媒体に記録された供述者の供述は、第二百九十五条第一項前段の規定の適用については、被告事件の公判期日においてされたものとみなす。

 

(施行期日)

第一条 この法律は、公布の日から起算して二十日を経過した日から施行する。ただし、次の各号に掲げる

規定は、当該各号に定める日から施行する。

一 第二条の規定並びに附則第四条第一項及び第五条の規定 公布の日

二 第三条中刑事訴訟法第三百二十一条の二の次に一条を加える改正規定及び同法第三百二十三条の改正

規定並びに附則第四条第三項の規定 公布の日から起算して六月を超えない範囲内において政令で定める日

 

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