こども性暴力防止法の成立により、学童保育や塾などの教育保育事業者に求められる対応は?
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1.はじめに
別の記事において、こども性暴力防止法の概要について説明致しました。(🔗こども性暴力防止法とは?)
同法の適用を受ける学校、事業者は、性犯罪の前科が無いことを確認・照会当等が可能となります。
ここでは、同法の適用があり得る
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- 学校、認可保育所、児童養護施設などの「学校設置者等」
- インターナショナルスクール、放課後児童クラブ、学習塾、スイミングスクールなどの「民間教育保育等事業者」
のうち、2の「民間教育保育等事業者」について、同法の適用を受けるためには、適用を受けるとどのような義務等が生じるのか、メリットはどのようなものか、という点について解説したいと思います。
2.認定を受けることができる「民間教育保育等事業者」とは?
こども性暴力防止法上、国から認定を受けることのできる事業者(民間教育保育等事業者)として定められている事業者は、以下のとおりです。
学校教育法に規定される専修学校
一般課程(例:簿記学校、製菓学校等)及び各種学校(准看護学校、助産師学校、インターナショナルスクール等)
学校教育法以外の法律に基づき学校教育に類する教育を行う事業
高等学校の課程に類する教育を行うもの。公共職業訓練中卒者向けコース等を想定
児童福祉法上の届出の対象となっているもの等
放課後児童クラブ等、一時預かり事業、病児保育事業、子育て短期支援事業、認可外保育施設、児童自立生活援助事業、小規模住居型児童養育事業、妊産婦等生活援助事業、児童育成支援拠点事業、意見表明等支援事業
障害者総合支援法上に規定されるもの(障害児を対象とするもの)
居宅介護事業・同行援護事業・行動援護事業・短期入所事業・重度障害者等包括支援事業
民間教育事業(児童に技芸又は知識の教授を行うもの)
例:学習塾、スポーツクラブ、ダンススクール等¹
¹こども家庭庁HP こども性暴力防止法参考資料3頁
このように、こども性暴力防止法では、学校教育法又は児童福祉法等に法律の根拠がある事業者だけでなく、学習塾やスポーツクラブ、ダンススクールのような児童に対して技芸又は知識の教授を行う事業(いわゆる「習い事」)も、認定を受けることができる事業者の対象となります。
もっとも、児童などに対して技芸又は知識の教授を行う事業の全てが対象になるわけではなく、次の要件を満たす必要があります。
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- 当該技芸又は知識を習得するための標準的な修業期間が6か月以上であるもの
- 児童等に対して対面による指導を行うものであること
- 事業を営む者の事業所等において指導を行うものであること
- 当該教授を行う者の人数が政令で定める人数以上であること
この要件を満たす事業者は少なくないと考えられ、学習塾や予備校、子供向けのスポーツクラブや、技芸を身に着けさせるための養成所など、様々な事業者が対象になると考えられます。
他方、オンラインの学習塾や、学校の体育館や校庭などを利用するスポーツクラブ、個人一人が行っている事業は上記要件に当てはまらないと読めるため、認定を受けることができません。
3.認定を受ける流れ
国から認定を受けるためには、事業者が国に対して申請を行う必要があります。
申請にあたっては、申請書に法定されている事項を記載し、必要書類を添付して内閣総理大臣に提出します。
その後、申請書に基づいて、基準に適合しているか否かの審査がされます。基準に適合しているかどうか認定の基準は、以下のとおりです。
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- 事業所の管理者や、児童に対して技芸や知識を教授するもの(以下「教育保育等従事者」といいます。)の犯罪事実確認を適切に実施するための所定の措置をとっていること(法20条1項1号)
- 教育保育等従事者による、こどもに対する性暴力等が行われるおそれがないかどうか早期に把握する所定の措置をとっていること(同項2号)
- こどもが教育保育等従事者から性暴力等を受けた際に、容易に相談することができるための措置をとっていること(同項3号)
- 自動対象性暴力等対処規定(こどもに対する性暴力等の防止措置、性暴力があった時の調査措置、被害児童の保護・支援措置)を作成しており、かつ、内閣府令の基準に適合すること同項4号)
- 教育保育等従事者に対するこどもに対する性暴力などの防止についての所定の研修を受けさせていること(同項5号)
- 犯罪事実確認記録を適切に管理するための所定の措置をとっていること(同項6号)
このように、申請にあたっては上記の措置を講じる必要があるため、申請までにかなりの準備が必要です。これらの措置の詳細は、法の施行までにガイドラインなどによって明らかになる予定です。
参考記事:「小さなお子様が犯罪被害に遭ったら」
4.認定を受けた民間教育保育等事業者の義務とは?
上記申請手続きにより認定を受けた民間教育保育等事業者(以下「認定事業者等」と呼びます。)は、こどもに対する性暴力を防止するために、学校等と同等の義務を負うことになります。具体的には以下の通りです。
児童対象性暴力等対処規程の遵守義務
申請時に作成した児童対象性暴力等対処規定(こどもに対する性暴力等の防止措置、性暴力があった時の調査措置、被害児童の保護・支援措置)を遵守することが、義務付けられます。
教育保育等従事者の犯罪事実の確認(法26条)
認定事業者等は、塾の塾長などの事業所の管理者と、塾の先生やスポーツクラブのコーチなどのこどもに対して知識や技芸を教える者(教育保育等従事者)に対して、性犯罪等の前科(犯罪事実)があるかどうかを確認する必要があります。
新しく採用した教育保育等従事者は、その人に業務を行わせるまでに、犯罪事実を確認しなければなりません。また、既に採用している教育保育等従事者についても、犯罪事実を確認しなければなりません。犯罪事実の確認方法などの詳細は、こちらの記事をご参照下さい。(🔗こども性暴力防止法における「犯罪事実の確認」(いわゆる日本版DBS)とは?)
犯罪事実確認記録等の適正な管理(法27条、12条、13条)
犯罪経歴や前科は、人の名誉、信頼に直接かかわる事項であり、最高裁判所判例によれば「前科などがあったとしても、みだりに公開されないという法律上の利益がある」とされています。
そのため、認定事業者は、犯罪事実の確認によって得た情報を適切に管理する義務を負い、犯罪事実を目的の範囲を超えた利用や、第三者に情報を提供することが禁止されています。
また、犯罪事実の確認によって得られた情報が漏えいした場合、状況によっては内閣総理大臣に報告しなければなりません。
犯罪事実確認状況の帳簿作成と定期報告
認定事業者等は、犯罪事実確認の実施状況を帳簿に記載して、保管しなければなりません。また、犯罪事実確認の実施状況や犯罪事実確認記録の保管状況について、定期的に内閣総理大臣に報告する義務を負います。
5.認定を受けるためのメリット
国から認定を受けることのメリットは、こどもに対する性暴力を防止する措置が取られていることを、外部にアピールすることができることです。認定を受けるとその旨をインターネット上で公表されるとともに、自身の広告等に所定の表示を付けることができます。
上記の通り、民間教育保育等事業者が国からの認定を受けるためには、厳しい基準をクリアする必要があり、認定を受けた後もこどもに対する性暴力等を防止するために様々な義務を負います。そのため、「国から認定を受けた」ということは、「従業員が、こどもに対して性暴力を行うことを防止する措置が取られている」ということの証明になります。そのため、こどもたちや保護者の方々の安心と、教育保育事業者としての信頼にも繋がるでしょう。
6.弁護士にご相談ください
このように、学習塾や学童保育などの民間事業者が認定を受けるには、職員研修や子どもが相談しやすい体制を整えるなどの要件を満たす必要があります。しかし、認定を受けることができるのか、認定を受ける場合にどの程度体制を整えればいいのかなど、判断が難しい事項が多いです。
また、認定を受けた後も、どの従業員について犯罪事実の確認が必要なのか、犯罪事実の管理はどのように行えばいいか、現職員に犯罪歴があった場合どのように対処すればよいかなど、認定後も法的判断が必要となります。
弁護士にご相談いただければ、認定までの各種体制の整備だけでなく、認定を受けた後の対応もサポートいたします。