企業に対する誹謗中傷と名誉棄損の判断-弁護士が解説

1. 誹謗中傷の意味と判断基準

「誹謗中傷」とは、他人の名誉や信用を毀損する不当な評価や侮辱的な言動を意味します。

判断基準は、様々な要素が複雑に絡み合っているため、一概に言い表すことが難しいですが、批判や悪口は必ずしも法的に問題となるものではありません。以下に、それぞれの違いを説明します。

 

・批判・・・批判は、企業の行いや意見に対して、正当な根拠に基づいて異議を唱えることを指します。批判が建設的であれば、社会的な議論を活性化させる役割があります。しかし、批判が事実に基づかないものや、会社の商品などの評判を悪意で傷つけることを目的としている場合、誹謗中傷とみなされることがあります。

 

・悪口・・・悪口は、企業の欠点や過ちを指摘し、軽蔑するような発言を指します。ただし、「あの商品はマズイ」など悪口が個人的な意見に基づいている場合は、誹謗中傷には該当しないことが一般的です。

 

また、SNSなどネット上の誹謗中傷の書き込みによって「誹謗中傷罪」などの刑法があるわけではなく、主に名誉毀損罪、侮辱罪、信用毀損罪などの刑事責任と損賠賠償などの民事責任が成立する可能性があります。

 

2. ネット上での誹謗中傷について

日本では、ネット上での誹謗中傷に関して、民法709条(不法行為に対する損害賠償責任)や刑法230条(名誉毀損)などが適用されることがあります。

 

加えて、2022年10月施行の「改正プロバイダ責任制限法」により開示請求を行うことができる範囲の見直しと新たな裁判手続が創設されました。

 

この法律はプロバイダは違法な発言があった場合に、加害者情報の開示請求できる対象範囲が拡大され、2回の裁判手続きから1回の裁判手続き(非訟手続)で投稿者の情報開示を請求できるようになりました。

被害者としても費用や時間の負担が減らされることにつながります。

 

続いて、誹謗中傷による刑事責任で多く該当する名誉毀損罪ついて説明します。

 

3. 誹謗中傷による名誉毀損が成立する要件

「名誉棄損」とは、虚偽の事実を公表し、企業の名誉を傷つける行為を指します。名誉棄損は、以下の4つの要件が成立する場合に該当します。ここでは、法律学上でいう違法性阻却事由なども加味したうえで、わかりやすく要件を解説しますので、書籍や法律事務所等のHPで説明している要件と記載の仕方が異なっております。

(1)公共性・公益性のない社会的評価を低下させる事実の適示虚偽の事実の主張

名誉棄損の第一要件は、社会の人々に利益をもたらすこともなく、人々が正当な関心を示すこともない事実(虚偽のものも含みます)で人ないし法人の社会的な評価を低下させる真実でない事実を主張することです。事実は、客観的に証明可能な情報や状況を指します。社会的評価を低下させるような虚偽の具体的な事実を主張することで、企業の名誉が傷つけられる可能性があります。ただし、主観的な意見や評価は、事実とはみなされず、名誉棄損には該当しません。

 

(2)公然性公表性

名誉棄損の第二要件は、公然性公表性です。公然公表とは、第三者企業に情報が伝わる形で広められることを意味します。ネット上のSNSや掲示板、新聞や雑誌、ラジオやテレビなど、多くの人に情報が伝わるメディアを通じて虚偽の事実が広められることが、公然公表性の要件を満たします。逆に、個人間の会話や秘密の手紙など、限られた人にしか伝わらない形での情報伝達は、公然公表性がないため名誉棄損には該当しません。ただし、特定かつ少人数しかいない場合でも、その人たちを通じて多数の人に伝わる状態であれば該当する場合があります。

 

(3)名誉の毀損損失

名誉棄損の第三要件は、名誉の毀損損失です。名誉の毀損損失とは、虚偽の事実の公表により、会社の他人の社会的評価が低下したり、信用が失墜したりすることを指します。具体的には、企業の売上が減少したり、個人が職を失ったりするなど、社会的・経済的な被害が発生することが考えられます。ただし、具体的に被害が発生することまでは求められず、社会的評価が低下する(被害が発生する)おそれがあればよいとされています。

 

(4)悪意または過失

名誉棄損成立の最後の要件は、悪意または過失です。悪意とは、他人の名誉を傷つける意図があることを指します。、刑事では故意犯が犯罪成立要件となりますが、民事事件では過失がある場合にも損害賠償責任が発生することがあります。過失とは、注意義務に反して他人の名誉を傷つけることを意味します。真実であると信じて情報を公表した場合でも、充分な確認や検証が行われていない場合は、過失による民事上の名誉棄損による損害賠償責任が発生成立する可能性があります。

 

以上の4つの要件が全て満たされる場合に、名誉棄損が成立します。しかし、名誉棄損の判断は事案ごとに異なり、具体的な状況や証拠に基づいて判断されます。名誉棄損が疑われる場合は、弁護士に相談し、適切な法的手続きを踏むことが重要です。

 

4. 誹謗中傷に対する企業の7つの対応策

誹謗中傷に対する対応策は、企業の規模や業種によって異なる場合がありますが、基本的には以下のポイントを押さえることが重要です。

(1)事前対策

社内で誹謗中傷に対するポリシーやガイドラインを明確にし、従業員に周知徹底させることが重要です。

 

(2)誹謗中傷の監視

SNSやウェブサイト上で企業や従業員に対する誹謗中傷が行われていないか定期的にチェックし、問題がある場合は迅速に対処する。

 

(3)ネガティブ情報の対応

インターネット上で誹謗中傷が発生した場合、事実関係の確認を行い、必要に応じて適切な対応(法的措置や情報の訂正)を行います。社内で平常時から、誹謗中傷するような書き込みがなされた場合にどのように対応するかマニュアルを作成しておくことをお勧めします。

 

(4)PR活動

良好な企業イメージを維持するため、積極的なPR活動を行い、正確な情報を発信していく。

 

(5)顧客対応

誹謗中傷に関する顧客からの問い合わせがあった場合、適切な対応を行い、顧客満足度を維持する。

 

(6)社内の風土作り

従業員同士の誹謗中傷が起こらないよう、オープンで健全なコミュニケーション環境を整える。また、元従業員や現従業員による会社に対するネット上の誹謗中傷も多数見られるため、入社時に会社や同僚に対する誹謗中傷するような投稿はしないなどの誓約書を取り交わしておくことも考えられます。

 

(7)オンラインの安全対策

会社に対する悪意ある投稿をする人々は、会社に対し恨み等を抱いているため、社内情報を漏洩させたり、コンピューター・ウィルスを仕掛けたりする場合があります。そのため、サイバーセキュリティ対策を強化し、誹謗中傷による企業の情報漏えいや不正アクセスを防ぐことも重要です。。

 

それでも誹謗中傷が悪質な場合や繰り返される場合は、弁護士に相談し、法的措置(警告や提訴)を検討する。

 

5. 企業が誹謗中傷された場合の稲葉セントラル法律事務所の対応

企業が誹謗中傷に遭遇した場合、当事務所では主に以下のような対応を行います。

(1)事実確認

まず、誹謗中傷の具体的な内容と、その情報源を確認します。情報源がインターネット上の投稿やSNSなどであれば、その記録を保存し、証拠として保管します。また、誹謗中傷によって企業に損害が生じているかどうかも調査し、損害賠償請求の根拠を明確にします。

 

(2)相手方への連絡

誹謗中傷を行った者に対して、情報の削除や謝罪の要求をするため、文書による連絡を行います。内容証明郵便や電子メールで、誹謗中傷の内容、法的な問題点、情報削除や謝罪の要求、損害賠償に関する意向を明確に伝えます。また、期限を設け、それまでに対応がなければ法的手段を講じる旨を伝えます。

 

(3)仮処分申請

相手方が連絡に応じず、情報削除が行われない場合は、誹謗中傷情報の削除を求める仮処分申請を行います。裁判所に申請し、適切な証拠を提出して、速やかな対応を求めます。

 

(4)訴訟手続き

仮処分申請や連絡にも応じない場合は、損害賠償請求を含む訴訟手続きを開始します。訴状を作成し、証拠や主張を明確に伝えることで、裁判所に誹謗中傷の事実と企業に与えた損害を認識してもらいます。また、訴訟の過程で、証人尋問や書類提出など、証拠を積み重ねていきます。

 

(5)和解交渉

訴訟が長引くと企業の評判や費用負担が増大する可能性があるため、適切な時期に和解交渉を検討します。相手方との間で損害賠償額や謝罪内容を話し合い、双方が納得できる合意に至ることを目指します。もちろん、企業が和解を望まないのであれば、和解はせず裁判所の判決を求めます。

 

(6)訴訟結果の実行

最終的に裁判所が判決を下し、誹謗中傷の事実が認定された場合、相手方に対して情報削除や損害賠償の支払いを求めます。判決が実行されない場合は、強制執行手続きを開始し、裁判所から執行官に依頼して、判決に従った行為や賠償金の支払いを実行させます。

 

(7)企業の評判回復支援

訴訟終了後も、企業の評判回復に向けた支援を提供します。公式な謝罪や情報削除が行われたことを周知させるため、プレスリリースの作成やSNSでの発信をサポートし、企業の名誉回復に努めます。

 

以上の手続きを通じて、誹謗中傷に対処するとともに、企業の権利を保護し、名誉回復を目指します。法律的な観点と専門的な立場を活かし、企業が適切な対応を行えるようサポートします。

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