両親が遠方にいる単身無職の被告人について、保釈が認められた事例
結論
被告人が、監督者に対して、被告人が使用するスマートフォンのGoogle Maps上での位置情報の共有することにより、監督能力が認められ、保釈が許可されたケース
〜場面設定〜
・罪名、前科前歴等を踏まえると、執行猶予相当の事例
・共犯者あり
・被告人は単身無職で、マンスリーマンションを借りて生活。
このような場面において、弁護人として公判を見据えて活動するにあたり、まず考慮しなければならないのは、保釈が認められた上で、被告人の就職先及び住居をどのように整えるか、ということです。
当該ケースで、被告人の監督者となれる人物は、被告人の親しかいないという状況でした。
そこで、まず、「被告人に、親が住んでいる実家に帰ってもらう」ことで住居を整えることを検討しました。
しかし、実家には体調がすぐれない親戚がいらっしゃった、という事実のため、被告人が戻って生活をするのはなかなか厳しかったのでした。
定職もなく、資金が十分であるとは言えず、このような状況下では保釈を諦めたくもなりますが、ここで諦めては更生の可能性を潰してしまうかもしれない、と考え、以下の手段をとりました。
1 監督者が使用するスマートフォンのGoogle Maps上に、被告人のスマートフォンの位置情報を表示させ、監督者がいつでも被告人の居場所を把握することができるようにした
こうすることによって、監督者はいつでも被告人の現在位置を把握することができるようになります。
※その他にも「ゼンリー」という位置情報を共有するアプリがあるようですが、裁判官に説得するという観点からは世間一般に認知されている(と思われる)ものを利用した方が良いのではないかと思います。
2 被告人に、監督者が自身のGoogleアカウントにログインすることを承諾させ、自身のGoogle Mapsの「タイムライン」機能を閲覧できるようにさせる
Google Mapsのには、タイムラインという機能があり、特定の日付におけるスマートフォンの位置情報を記録してくれます(ただし設定でONにしなければならない)。
このような手段を取ることで、監督者において保釈中の被告人が不自然な行動をとっていないかなど把握することができます。
※今回のケースでは、被告人は、特にGmailなどでやりとりを行なっていたわけではなく、Googleアカウントにログインしても構わないということだったので、監督者にログインIDとパスワードを伝えました。しかし、ケースによってはGoogleアカウントにログインされるのは抵抗がある、という方もいらっしゃると思うので、その場合にはタイムラインの情報をスクリーンショットで毎日監督者に送らせるという手段もあると思います。
タイムライン機能は証拠収集にもってこいです。
3 誓約書の作成
保釈請求書の添付資料として、監督者と被告人それぞれに誓約書を作成してもらいました。
誓約書の内容はそれぞれ、以下のようなことを記載しました。
〜監督者〜
・被告人が実家を離れ単身で生活するようになった理由(親子の縁が切れている、仲違いしていないということが分かればそれで良い)
・疎遠になってしまったけれど、被告人を監督すると誓約する内容(疎遠だったのに、どうして被告人を信用できるのかが分かるように)
・本来一緒に住みたいところだけれど、同居が難しい理由
・その代わりに、上記1及び2を行うことを誓約すること
・一瞬でも不自然な行動があると考えられれば、速やかに弁護人へ連絡すること
〜被告人〜
以上の内容を被告人目線から記載します。
そして、忘れてはいけないのが、「位置情報の共有と、監督者にGoogleアカウントを伝えて無断でログインしてもらうことの2点を許諾すること」です。不正アクセス禁止法に抵触しないよう、念のため行います。
以上の内容を盛り込んだ保釈請求書を作成し、保釈を行ったところ、認められました。