こども性暴力防止法(学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律案)とは?
1.はじめに
2024年6月19日、子どもを性被害から守ることを目的として「学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律案」(いわゆる日本版DBS法。以下「こども性暴力防止法」または「法」といいます。)が成立しました。
同法はイギリスの「DBS制度(前歴開示および前歴者就業制限機構)」を参考にしており、学校設置者や認定を受けた民間教育保育事業者等に対して、教育や保育等に従事させようとする者の性犯罪の前科確認や、子どもへの性暴力を防止するための措置が義務付けられることとなります。
政府は2026年度中の施行を予定しており、今後、性犯罪歴が確認された場合の対応策など事業者向けガイドラインの策定がすすめられます。
2.なぜこども性暴力防止法が必要なのか?
警察庁の統計によると¹、令和5年度における児童買春等事犯(児童が主たる被害者の不同意性わいせつ罪や、みだらな性行為など)の検挙件数は4,418件、児童ポルノ事犯の検挙件数は2,769件であり、年間7,000件以上子どもの性被害が発生しています。
しかし、こどもの性犯罪は、その被害が明るみに出にくい犯罪です。被害に遭ったこどもが幼い場合、自分が何をされたか自覚しづらく、問題行為が周囲に発覚しにくいです。また、被害を自覚したとしても、周囲への相談や被害の訴えをためらってしまうケースも多いと考えられます。
このような状況を踏まえると、年間7,000件は氷山の一角であり、実態としてはそれを遥かに上回る被害が想定されます。
そして、こどもに対する教育、保育を提供する事業においては、①こどもを指導するなどして、支配的・優越的な立場に立つこと(支配性)②時間単位のものを含めてこどもと生活を共にするなどして、こどもに対して継続的に密接な人間関係を持つこと(継続性)③親などの監視が届かない状況下で預かり、養護等をするものであり、他社の目に触れにくい状況を作り出すことが容易であるとこ(閉鎖性)²という性質があるため、性犯罪が起こりやすく、こどもに対する性犯罪の発生に特別な注意を払う必要があります。
実際に、性犯罪は加害者の7〜8割が顔見知りであるとの調査結果³があり、こどもは特に親族や、教師・コーチ、施設職員等、身近な人物からの被害を受けることが多く、学校、保育園はもちろんのこと、学童保育、スポーツクラブ、学習塾、ベビーシッターなどで性被害が発生しています。
弊所弁護士による子どもへのわいせつ事犯の取扱いにおいても、実際に保育園、学校内で起きた事件等、やはり身近なところで発生していることが多いです。
そのため、こどもが教育や保育等の提供を受ける場においてこれらを提供する業務に従事する者による性犯罪・性暴力の被害に遭うことがないよう、未然に防止するための制度が必要です。このような背景があり、こども性暴力防止法が制定されました。
¹警察庁『なくそう、こどもの性被害 統計データ』 (参照2024-09-05)
²こども家庭庁「こども関連業務従事者の性犯罪歴等確認の仕組みに関する有識者会議」報告書」3頁(参照2024-09-05)
³内閣府『性犯罪・性暴力対策の強化の方針』(参照2024-09-05)
3.概要
「対象事業者」というものが定められており、この事業者は、職員等の前科を調査する義務を負ったり、子ども達に対して危険が及ばないような措置をとったりする必要があります。
この「対象事業者」については、
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- 学校、認可保育所、児童養護施設など(「学校設置者等」(法2条3項))
- インターナショナルスクール、放課後児童クラブ、学習塾、スイミングスクールなど(「民間教育保育等事業者」(法2条5項))のうち、国から認定を受けた事業者
の二つが定められています。
1の学校設置者等は、こども性暴力防止法が施行された後は、職員の性犯罪の前科の確認等の義務を当然に負います。
他方、2.一般課程の専修学校やインターナショナルスクール、放課後児童クラブ、民間の学習塾などの民間教育保育等事業者が性犯罪の前科の確認等を行うためには、国からの認定を受ける必要があります。逆に言えば、これらの事業者は、国から認定を受けない限り、こども性暴力防止法の適用はありません。一定の要件を満たせば国の認定を受けることができ、認定を受けた場合には、学校などと同様に性犯罪歴確認などの義務を負います。民間教育保育等事業者が認定を受ける方法や、認定を受けるメリットについては、別の記事をご参照下さい。(🔗こども性暴力防止法の成立により、学童保育や塾などの教育保育事業者に求められる対応は?)
こども性暴力防止法の成立により、1の学校設置者等や2の認定を受けた民間事業者は、おおまかに以下の3つが義務付けられます。
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- こどもの安全を確保するために・教員等の研修・危険の早期把握のための児童等との面談等・児童等が相談を行いやすくするための措置の確保
- 被害が疑われる場合の措置・調査・被害児童の保護
- 教員等に対して、対象となる性犯罪前科の有無の確認
ABの義務は、性犯罪で検挙された者のうち、約9割に性犯罪の前科がないという実態を踏まえ、初犯対策として、事業者に職場での研修や被害の早期把握、相談体制の整備、被害が疑われる場合等の調査を義務付けています。これにより、性犯罪の発生の防止や被害の早期発見が可能となります。
また、性犯罪は他の犯罪に比べて再犯率が高いことから、再犯対策として、Cの性犯罪前科の有無の確認が義務付けられました。確認できる前科の内容や、前科の確認・照会の方法については、下記の記事をご参照下さい。(🔗こども性暴力防止法における「犯罪事実の確認」(いわゆる日本版DBS)とは?)
4.今後について
こども性暴力防止法は、2026年度中の施行が予定されています。
現段階では、現職員に犯罪歴が確認された場合どうすればいいか、解雇が許容される条件は何か、など詳細な内容はまだ未定であり、これらの点については今後政省令やガイドラインが作成される予定です。