「日本版DBSで性犯罪歴が判明しても解雇できない?」制度開始前に企業が準備すべきこと

1.はじめに

令和8年12月から、いわゆる「日本版DBS」を導入したこども性暴力防止法が施行されます。

制度の開始により、学校や保育所、放課後児童クラブ、放課後等デイサービスなどの対象事業者は、従事者の性犯罪前科の有無を確認し、児童を性暴力から守ることのほか、必要に応じて配置転換や業務内容の変更、懲戒処分、内定取消などの措置を講じることが求められます。

もっとも、制度の説明を聞いた事業者から、実際には次のような疑問を受けることがあります。

もし既存の従業員に性犯罪歴があることが判明したら、その場で解雇できるのでしょうか。

結論からいえば、必ずしもそうではありません。
本記事では、DBSによって犯罪歴を確認した従業員に性犯罪があることが判明したときの対処法について解説いたします。

2.解雇には法律上の高いハードルがある

こども性暴力防止法の施行があるといっても、従業員を解雇するなどの対応について個別の記載があるわけではなく、その対応は一般的な労働法令に基づいて判断されることになります。ご承知のとおり、企業側は自由に従業員を解雇できるわけではありません。

労働契約法16条は、客観的合理性及び社会通念上の相当性がなければ解雇は無効になると定められていますが、この合理性、相当性の判断が悩ましいところです。特に問題となるのは、制度開始前から勤務している既存従業員です。

3.既存従業員には「採用時の前提」がない

新たにこども性暴力防止法が施行されることから、新たに採用する従業員であれば、

    • 特定性犯罪として列挙される犯罪で処罰されたことがないこと
    • 犯罪事実確認に同意すること
    • 確認の結果によっては配置転換や一定の雇用上の措置を受けること

 

などを募集要項や誓約書、内定通知書等であらかじめ説明し、同意を得た上で採用することが可能であり、かつ、そのような対応を求められることになります。

しかし、制度開始以前に採用した従業員については事情が異なります。
採用時にはこのような説明も誓約もなく、DBS制度の存在自体がありませんでした。

そのため、DBS制度を導入し、既存従業員の特定性犯罪の事実が確認されたとしても、
「採用時にはそのような条件ではなかった」
「これまで会社で問題なく働けていたはずだ」という反論が生じやすくなります。

この点が、既存従業員への対応を難しくする最大の理由です。

 

4.ガイドラインでは個別具体的な対応については言及がない

実は、この問題はこども家庭庁も強く意識しており、施行ガイドラインでは採用選考過程において特定性犯罪前科の有無を確認していなかった場合」は、

「当該事実のみを理由として直ちに解雇することについて、合理性・相当性が認められると は考えにくい。」
「まずは配置転換や業務範囲の限定により対象業務に従事させないよう検討することが考えられる。」

としたうえで、解雇以外の選択肢が取りえないとされても、

「最終的には司法の場において、個別の事案ごとに具体的な事実関係に基づいて客観的、合理性、社会的相当性の観点から判断されることとなる。」

と記載されており(GL226頁)、最終的には司法の場で解決されることになるとまとめております。

このような記載については個別具体的な事案ごとの判断であるため、やむを得ない場面がありますが、このような事態に陥る事業者はどのように対応するべきか悩ましく、子どもを守る義務との間で板挟みになることになります。

 

5.企業は今、何をすべきか

もっとも、上記ガイドラインにもあるように、事業者に対しては制度開始前からの準備を求めています。

これは裏を返せば、事前のルール整備がなければより制度運用それ自体、そして問題が生じた後の対応が難しくなることを意味しています。

企業としては、少なくとも次の点を整備しておくことが望まれます。


① 就業規則の改訂
② 採用時に誓約書を取り付ける
③ 募集要項・求人票の見直し
④ 犯罪事実確認への同意取得方法の整備
⑤ 配置転換や職務変更の基準の策定
⑥ 児童対象性暴力等対処規程の策定
⑦ 管理者向けの対応マニュアルの整備


そして、弊所としては、既存従業員に対してもこども性暴力防止法の施行に伴い生じる犯罪歴の確認について、そういったトラブルが過去にないことを確認しておくことが重要であると考えています。

なぜならば、事前にそのような事実の有無を確認しておくことで、法律の制度趣旨に則った企業としてあるべき対応を尽くしたと主張できる材料を確保するとともに、こういった歴があることを自発的に述べた従業員に対して円滑に配置転換等の交渉をすることができトラブルをできるだけ避けられるようになること、これを秘して虚偽の申告をした従業員に対する処分の妥当性を担保できるようになること、といった効果が得られることになると考えています。

 

6.まとめ

日本版DBSは、犯罪歴を確認する制度であると同時に、その確認結果を踏まえて適切な人事管理を行う制度でもあります。

しかし、既存従業員については、採用時にDBS制度を前提とした説明や誓約がされていないケースがほとんどであり、犯罪事実が確認されたからといって直ちに解雇できるわけではありません。

だからこそ、こども家庭庁も制度開始前から就業規則や誓約書等の整備を求めています。

事業者にとって重要なのは、「DBS制度が始まってから考える」のではなく、「始まる前に人事制度を整備しておく」ことです。

弊所では、DBS制度の導入に伴い制度設計をサポートする支援を行っております。

既存従業員、新規採用者に対して取り付けるべき誓約書のテンプレートもダウンロードできるように整えておりますので、以下のフォームよりお気軽にお問い合わせください。

※当該テンプレートによって発生する労働紛争等トラブルをすべて解消できることを担保するものではないため、ご利用は事業主ごとの責任でお願い申し上げます。当該資料をどのように用いるかのご相談など受け付けておりますので、お気軽にご相談ください。

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